Japanische Klassiker mit Furigana
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さんごくし
三国志(一)
吉川 英治
Lesen Sie 三国志(一) (さんごくし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 309.839 Zeichen · 622 Bildschirme
「まだ志も達せず、晴れて母上にお目にかかる時機でもありませんが、先頃から官地を去って、野に潜んでおりますゆえ、役人たちの目をぬすんで、そっとひと目、ご無事なお顔を見に戻って参りました」
老母の眼は明らかにうるんでみえた。髪もわずかのうちに梨の花を盛ったように雪白になっていた。眼もとの肉もやつれてみえるし――機にかけている手は藁ゴミで荒れている。
しかし、以前にかわらないものは、子に対してじっと向ける眸の大きな愛と峻厳な強さであった。こぼれ落ちそうな涙をもこらえて、老母は、静かにいうのだった。
「阿備……」
「はい」
「それだけで、そなたはこの家へ帰っておいでなのかえ」
「え。……ええ」
「それだけで」
「――母上」
すがり寄る玄徳の手を、老母は、藁ゴミとともに裳から払って、たしなめるようにきつく云った。
「なんです。嬰児のように。……それで、おまえは憂国の偉丈夫ですか。帰ってきたものはぜひもないが、長居はなりませんぞ。こよい一晩休んだら、すぐ出てゆくがよい」
三
思いのほかな母の不機嫌な気色なのである。それも、自分を励まして下さるためと、劉玄徳は、かえって大きな愛の下に泣きぬれてしまった。