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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

「不慮のこととは、これをいうのであろう。この隠居すら考えられぬことじゃった。ぜひもない」

「……ただ、ご隠居さまのお身になんの事もなかっただけが」

「わしの身辺へは、あまりに近づき難いため、わしへかかるべき災厄が、思わぬものへ罹ったような気がする。……禍いというものはいつでも弱いもの虐めではある」

「無念にぞんじまする。これが、表だってもさしつかえない儀ならば、かならず下手人どもは、あす一日をまたずに引っ縛ってまいりましょうに」

「やめい。やめい」

あわてて老公は顔を振った。城下を離れた寒村の一事件として、どこまでも小限度にとめておきたい意向がうかがわれる。たとえば下手人が逸はやく領境をこえて、他国の領地へ遁れてしまった場合も、あえて藩と藩との交渉によって、それを追求するようなことは避けたい程度にである。

「覚之丞」

「はっ……」

「もし、夜の明けるまでに、手際よく、下手人のかたのつかなんだときは、詮議の手は退いたがよい。そしてすべての者へ口どめせよ。藩への報告も内申ですませておくがよかろう。――いずれにせよ、死した者は回らず、攫われた二人も当分はもどるまい」