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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
六
大高新右衛門さまがお通りあるわ。大高さまのお馬の前をふさぐのは誰だっ」
すると、馬の上を仰ぐいとまもないように、老幼男女は、いなごのように、わらわら道をひらいた。
老公は、駒足はやく、人ごみを駈けぬけて、
「又四郎、これで心地が、すっぱりしたであろう。気鬱のときは、大声を出すが妙薬である。これからも、何か鬱したら、あのような声を天に向って吐き、胸は、そっと撫でておけよ」
と、いった。
六
「……はい。仰っしゃるように、気がからりとしました」
又四郎は、笑い顔をふりあげた。もう棒ではない明るさである。
――若い者の気もちをよく知っておいでになる。
かれは心のうちで、頭をさげていた。だが、いまのことは、自分に与えられた意味だけではないように思われた。
率直に、かれは訊ねた。
「もし、ご老公」
「なんじゃ」
「人ごみを追うなら、どう申しても、道をひらきましょうに、何故、特に大高新右衛門の名を呶鳴れと、おいいつけなされましたか」
「その儀か」
と、馬のうえから左右を見て、同じ疑いを抱いていた林助、悦之進へもいうようにいった。
「新右衛門は、当所の郡役人、藩政と里民のあいだにあって、どれほどな威令を持っておるかと、ふと、試みてみたのじゃ。