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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
三
あとはいい得ないで、額も畳につけてしまった。
一面、棒のように見える又四郎は、その突ッかい棒が外れると、自己の感情をあざむけないむき出しの自分を見せてしまう男らしい。
短所も長所も、知りぬかれている老公のまえでは、わけてもそうらしく、嗚咽して、いつまでも顔を上げなかった。
老公は、あきれ顔に、
「なるほどこれでは、藩老の藤井紋太夫をはじめ、家中の者からも退け者にされたはず、勤め向きでも折合えまい。……さてさて卜幽は、困った駄々息子を遺したものかな」
と、嘆息をもらしたが、果ては、おかしさに、
「湯漬はどうした。又四郎。そろそろ空腹じゃ。湯漬を喰べさせんか」
と、苦笑しながら催促した。
三
はい、といって立つかと思いのほか、又四郎は首を横に振って、
「さしあげません。てまえの申しあげることを、お取上げくださらなければ、ご飯などさしあげるわけにはゆきません」
頑然と、いい張った。
これには老公もあきれ顔に、
「ひどい兵法じゃな。飯櫃をかくしておいて要求をつき出しおる。いったいそちは、何をわしに望むのか」
「奸賊どもをご一掃ください。さもないと、お家は危ういと思います」