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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
二
製紙、製茶、養蚕、織物などいうまでもない。非常な進歩を示して来た。殊に殖えたのは馬である。馬産を奨励した結果、どんな農家でも、牛馬を持ち、若草があるところ、仔馬の群が遊んでいた。
「まあ、可愛らしい。……お蕗さま、あんな小さい仔馬が」
旅すがたのふたりは、時折、そんな平和な風物に、杖をとめて見惚れていた。
わけて、江戸むすめのお次には郷土人の生活は元より、畦の野菜の一茎まで、眼に珍しくないものはなかった。
二
どうしてこの両女が、こんな所を旅しているのだろうか。お蕗とお次とが、あたかも姉妹のように、連れ立っているさえ、不審でないことはない。
後では自然分ることであるが、一応その経路を説いておくほうが順序であろう。
又四郎に扶けられて、柳沢家を脱した後、お蕗は、又四郎の最後のことばを伝えるため、魚松のおかみさんを訪れて事情を打明け、藤井家の奥に仕えているお次を、ある手段の下に呼び出した。
お蕗からの言伝をうけるまでもなく、お次はすでに何もかも知っていた。紋太夫の口から聞いているのである。又四郎の決行が失敗に終って、江橋林助とともに空井戸の底に陥ち入ったまま、空しく天を恨んでいるということまで、かえって、お次からお蕗が聞かされたほどであった。