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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
十二
といっている。
宿場問屋に働いている自分ごときものには、這般の事情はもとより分らないが、何となく、安からぬ思いがして、
(何か、自分のようなものにでも、出来ることがあるなら、お役の一端にでも立ちたい)
という気持がおこり、急に江戸へ出て来て、佐々介三郎をたずね、その通りな心を訴えてみたところ、
(べつだん事件も何もありはしない。また、志はありがたいが、そちなどの力をかりることもない)
とあっさり断られたので、この前、泊ったことのある浅草見附の木賃に落ちつき、二、三日は見物でもして水戸へ帰ろうかと思っていると、今朝早く、介三郎がふいにたずねて来て、
(すこし手が足りないから、貴様も来い)
とのことに、どこへ何しに行くのやら分らないが尾いて行くと、途中から渡辺悦之進と江橋林助が加わり、三名とも、ここへ来ると、裏表の門から邸の中へはいってしまった。――そしてそのまま、いまもって、何の事もないので――と、勘太も不審顔するだけであった。
与平は、苦笑して、
「そうか。ではそちは、ここに立って、見張をしておれといいつかったのだな」
「へい。たれか、不審な者でなくとも、この邸へ来る客とか、また、柳沢家の家来らしい者でも来たら、すぐ門外から礫を投げて中にいるわれわれに合図をしろ――と、そう申しつけられておりましたので」