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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

銀河

一

彼女のすがたが。愁然とゆくその影が。

「あっ。……おおお蕗どの」

思わず立って、声をあげようとした時である、うしろに番をしていた武士が、すぐ大きな手でかれの口をふさぎ、もうひとりの番の者へ、

「おい、手拭をかせ、手拭を」

と、締めつけながら、あわてていった。

銀河

一

初袷を着、風も秋めくと、毎日のように、江戸のどこかしらで、笛太鼓の音の聞えない日はない。わけて浅草界隈は、祭というと、裏店まで綺羅美やかに賑わう。

おもての魚松のおかみさんは、髪の生えぎわに汗をにじませていた。残暑の昼下がりである。やっと店の手がすこし空いたところらしい。前垂れの下に、何か持って、狭い路地を、小走りに曲って行く。

どぶ板が鳴る。どぶの下から蠅が立つ、それがみんな肥ったおかみさんの体にたかった。魚のにおいがするからであろう。

「人見さん。人見さん。――あらあら、寝てるんだね。大の字なりに」

格子も開けるには及ばなかった。狭い土間は開け放しだし、ふた間しかない家は、裏縁のすだれ一枚が揺れているだけで、風の吹き通しにまかせてある。

おかみさんは、上がって来た。

人見又四郎の浪宅である。