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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
四
四
門から遠く、彼方の梅畑の近くで、駕はとまった。
そのまに老公と若い人たちは、もとの席へもどり、もうそこの明りから談笑の声がもれて来る。――あとに残って、駕の客を待ちうけていたのは悦之進だけだった。
駕の灯はもとの闇へ帰って行く。――それと反対に、三つの人影は、西山荘の門へ近づいて来た。
「おお、惣左どのか」
悦之進から声をかけた。牧野惣左衛門は、何か重箱のような包みをかかえて入って来た。すぐそれを悦之進にわたし、
「これは、雪乃さまのお手土産だそうです。老公のおすきなおまんじゅう、ご披露ください」
と、用向だけをのべてすぐ身をよけた。
見ると、
惣左衛門の退いたうしろには、ふたりの美人がつつましやかに佇んでいた。
ひとりは、たしかにうら若い佳人だが、ひとりのほうは、もう齢にしたら六十にも近い老婆であった。それを美人といっては少し当らないようだが、老婆なるがゆえに美人といえないわけは決してない。
現にいま、悦之進のまえに、すこしすすんで、
「かねがね、惣左どのに仰せくだされて、こよい来い、会うてやるとの、老公さまのおことばに甘え、お約束の頃おいと、参じました者でございまする。