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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
三
「貴さまは、碁が上手いので、よく老公のお相手に召されるが……碁のうえなどでも、お叱言の出ることがあるか」
「てまえのような百姓おやじを、親しくお召しくださるのも、碁ができるためですから、ここは碁盤の上だけと、行儀を守っていればよいのに、つい出すぎたお願いをしたものですからね」
と、彦兵衛は、大きな前歯で笑いながら、あたまを掻いた。
三
碁のうまい百姓の彦兵衛は、碁の余徳で、たびたび老公のお相手によばれるうち、ふと、欲が出てきた。
それは、日頃にはない欲だったろうが、
(ここの衆は、みんな刀をさしているし、わしもなんとか、刀をさしてみたいものだ)
と、いうことだった。
老公は、気がるなので、碁相手の彦兵衛にもよく隔てなく冗談をいう。で、それに馴れて、ある時、
(こうして、お武家方のなかへ、常々伺いますと、なんだか刀をさしていないと、妙に自分だけが、寝間着すがたでもいるように、気が怯けましていけません。……ひとつ、老公さまからお声をもって、帯刀おゆるしの儀をなんとか、仰ぎたいもので)
と、ねだッた。
老公は、いと易いことと、うなずいて、
(帯刀の手続きは、郡奉行のすること。