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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

寵臣

……まったく、そのむかっ腹がした出来心でございます」

「なに、お国表の老公が、ご発狂なされたと、町はうわさしていたか」

「嘘か、ほんとか、何しても、聞き捨てにならないことと、その男が、銭湯を出たあとをつけて、呼びとめたのが、まちがいの因でした。つい、堪忍をやぶっちまって。……ああ、まだいけねえ。だめです。これから自首して、もし遠島か牢舎ぐらいで、生命がありましたら、もう一ぺん生れ直します。どうかごきげんよう」

勘太は何べんも頭を下げ、また何べんも介三郎のすがたを仰いでいた。

夜が明けては――と気が急くのであろう、介三郎は少しでも留めておきたかったが、いればいるほど、未練になるのを、勘太自身怖れているらしく、やがて、振り切るように立ち去ってしまった。

寵臣

一

呉服橋内に約七千坪ぐらいな地域を擁しているやしきがある。

柳沢吉保の邸であった。

ふつうの諸侯のそれよりは倍も広い。もっともここも以前は水野、松平の二家にわかれていたのを、吉保が住むようになってからひとつに併せてしまったのである。

「いちどは、こうしたやしきの主になって、数寄を凝らしてみたいものだが」