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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

巷

一

「いよいよ旦那とも、お別れの日が近づきました」

と、供の勘太はそれが苦になるらしく、日本橋の雑鬧を見ても、どこか淋しそうだった。

浅草門まで来ると、

「旦那、どこまで行っても、限りがありませんから、お名残り惜しゅうございますが、ここで……」

と、自分からいい出した。

旅のあいだに、勘太の考えは聞いていたので、介三郎も止めようとはしなかった。ともあれ初志をつらぬいて、水戸の菓子屋の主人にも、人なみの客と扱われるまでにならないうちは、故郷へ帰る気はないというのである。

「なに、ここで別れる? ……。これからどこへ参るつもりか」

「あてなどはございません。河岸へ行って軽子をしようと、鉄砲笊をかついで紙屑買いをやろうと、無二無三にやって行けば、働いているうちに思案はひとりでにつくと思っているだけで」

「じゃあ、もう一晩一しょに送ろう。どこか、旅籠をとって」

「でも旦那は、これから真っすぐに、水戸様の小石川のおやしきへおいでになるんじゃございませんか」

「もう日も暮れたから、参邸は明朝にする。どこかその辺へ一泊して。――勘太、宿をさがせ」

「この辺には、商人宿や博労宿ばかりのようですが」