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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

三

やめんか!」

両手に吊るしている甚兵衛と一角を振りまわして、介三郎は泥鰌の群をたたきつぶして通った。人間をもって人間を撲る。毒をもって毒を制すの程度ではない。これはよほどな腕力の持主でなければ能わぬところである。

三

この事態にたいしては、花隈の熊も、生田の万も、また柴田、牟礼、浮田などの輩も、もはや仲間喧嘩はしていられなくなった。

「墓守の佐々とかいう田舎ざむらいからさきに片づけろ」

「あいつをのめせ、あいつから先にたたんじまえ」

「こっちの勝負はそのうえで来い」

べつな強敵を迎えたかれらはたちまち、ならず者とならず者との団結の精神をあらわして、一たんの頽勢をもりかえし、佐々介三郎ひとりへ向って、暴風のごとく襲いかかって来た。

かくなれば、日ごろ介三郎から戒められて、我慢に我慢していた職人たちも、黙視しているところではなかった。

「見やがれ、うじ虫」

「ござんなれだ」

「ふみ潰せ」

と、猛然、それに当って、さながら甲冑のない合戦を思わすような、すさまじい死闘を展開した。

これは怖ろしく強かった。

かれらは、自分たちの腕力が、正しいことを知っていたし、半年の鬱憤をいま一度に爆発させて起った勢いである。