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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

四

いいかけるとすぐ、おかみさんは立ち上がって、思い出したように、土間口の下駄へ足をおろした。

「たいへんだよ、わたしはまあ。夕方になるのに、お花客先の注文を、みんな独りのみ込みしていて。――うちのおやじさんにまた呶鳴られなければならない。お次、おまえは遊んでいて、あとでまた、お夕飯の支度でもしておあげ。その頃に生きのいいお刺身でも届けてよこすから」

四

茶をのむ。茶碗をおく。

又四郎も、ちと所在がない。

「…………」

なおさらお次は身のおき場に困った。といって、帰りたそうでもなかった。

往来のざわめきが手にとるように聞えてくる。神輿のあとをまた花車や囃子屋台がつづいて行くのであろう、太鼓、笛、ちゃんぎり、世間は浮いていた。

「……あの。何かわたくしに出来ることならさせていただきます。お夕飯は、もっとあとでようございましょうか」

お次の胸も何か奏でていた。声がふるえるのである。又四郎のぶっきら棒も、無心ではあり得ない。

「あとで、よいです」

すこし硬くなって、

「お次さん、聞きたいことがある。もすこし、寄ってくれい。壁にも耳という。ちと憚ることだから」

「はい。