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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

七

桃源橋の霜をふんで、その先に立って来た御歩行の樫木万右衛門は、ふと渡りこえた橋のたもとへ笠を向けて、

「やっ? ……。佐々、人見のご両所ではないか」

と、さも驚いたように、立ちどまった。

駕籠のうちで、老公の声がした。――停めよとある。そして、塗戸がひらいた。

霜より白い髯があらわれる。心なしか去年あたりより幾ぶん肉の削げたかに見える眼もとではあるが、烱とした威はむしろそれゆえに多くを加えている。

「介三郎でないか」

「はっ……」

「又四郎もいたか」

「……はい」

ふたりとも、ただそれしか、答え得なかった。

老公の裁きを仰いだ上と、ゆうべから五里の道をあるき通して、ここまで持って来た是か非かの生命がけな論議も、ここでは口に出すすべもなかったし――より以上、老公のいつにない堂々たる行装の出先にたいして、大きな疑いと不安を抱かずにはいられなかった。

駕籠をあけて、寒い外気に触れたせいか、老公の鼻はすぐ赤らんだ。しばし咳声にむせびながら、

「にわかな出府にかかわらず、両名とも、よう待ちうけたの――おそらく、このたびの出府が、光圀の終りのものとなるであろう。そちたちも供をせい。