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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

十

もし」

歩行目附の海野三右衛門と秋山村右衛門のふたりが、そうした中に囲まれている一家族のそばへ寄って、ていねいに頭を下げた。

「――皆さま方は、藤井紋太夫どののご家族でいらっしゃいますか」

すると、他家の女房たちと、何か睦じそうに話していた三十ぐらいな眉目美い婦人が、

「はい。これにおりますのは、紋太夫どのの母御、また子息たち。わたくしは、妻でございますが」

と、しとやかに礼を返して、用向きをたずねた。

十

「お迎えに参ったのです」

海野三右衛門は、紋太夫の妻へいった。

「――特に、老公のお旨で、ご家老のご家族だけへ、あちらでそっと、お目通りをゆるされるそうでござる。てまえどもに従いてお越しください」

と、秋山村右衛門と二人して、先に立った。

「えっ、お目通りをたまわりますとな」

紋太夫の母は、光栄にわなないて、もう涙ぐんでいる。妻は、その手をとり、ふたりの息子は、あとに従った。

息子はどっちも父の紋太夫に似て端正の面ざしをしている。泉之助十三、弟の桐次郎が九つだという。

「可愛いさかりですな」

歩行目附の海野三右衛門にも、西山の田舎に子どもがある。こんど老公の供をして来ているまも、思い出すのは子どものことだけだった。