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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

十四

、追撃して来た佐々、江橋などを相手に、一歩も退かず斬りむすんで、ついに斃れたものだった。

――又四郎はふと、その用人の行動を思い出して、

(なぜ彼が、わざわざここへ引っ返して、最後まで、その室をうしろにして、斃れたか?)

を考えていたのであった。

そう疑いながら、何気なく、その用人の死骸の位置を、ふた間ほど隔てた一室から見直していると――まだ虫の息ほどな余命をもっていたらしく――かれの最初斃れたところにその姿はなく、いつのまにか、六、七尺も室内のほうへ向って居どころが変っていた。

――のみならずである。

その用人は、見ているうちに、二寸、三寸と、畳に血のあとを引きずりながら、大きな炉のそばまで、這いすすんでゆき、しかも、時々必死の眼をつりあげて、右手の刀で、炉の上に懸かっている自在鉤の煤竹を斬り落そうとしているのである。

もとより虫の息なので、かすかに首を擡げるのもやっとだし、手の刀も、戞と、自在の竹を掠めたに過ぎないが――その意志たるや、いまにも絶えなんとする気息とは反対に、恐ろしい断末の懸命なるものが、そのもがきに見てとれるのであった。

「……?」