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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

二

そして一夜の機会を教えて来た。

それは彼が寺に姿を見せてから、数日の後だった。

彼は単身、柳沢家の塀をのりこえ、邸内へ潜入した。

もちろん人目立たない軽装をし深く面をつつみ、まず平常はすべて戸閉している新殿のほうに隠れて、徐々、夜更けを待って、目的のものへ近づいたのであった。

かれが第一に求めたのは、林助の監禁されている邸内の牢獄だった。

二

屋外か邸内か。それとも、どこかに牢獄らしい一棟でもあるのか。

その辺のことは、かれには皆目予備知識がない。遠まわしなお次の便りからそれを突きとめておくなど、求めても無理であった。

「知れないうちは、五日でも七日でも、ここの床下へ潜もう。紋太夫が訪れている晩は今夜に限るまい」

又四郎はここへ来てから、そうも考え直した。邸内に入ってみると、雉子や野狐もいそうなほど広大である。十分に身をかくす余地はある。ただ食物には方法がない。しかしこう悠々と潜めるくらいなら夜半か暁を見ては、外へ出てまた戻って来てもいい。

「市の中に、野外がある」

ともすれば、危険な敵地であることさえ忘れがちになった。又四郎はそこここと、逍遥していた。