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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

三

そして、

「こう町中を連れ立って歩いては、微行も微行になるまい。中食は又左の浪宅にてしたためる。わしは葛屋へ立寄って、饅頭を誂えて後より気まかせに参るゆえ、そちたちは、人見又左の宅で待ちあわしておれ」

と、次の辻をひとり曲って行った。

気がかりにはなるが、老公の意志である。ふたりは老公のすがたが、旧い菓子舗の軒へはいるのを遠くから見届けてから、人見又左衛門の浪宅へ先に行って待つことにした。

老公は、老舗の店がまえをながめまわし、そこの黒い看板に、

浙江まんじゅう

とあるのを見出すと、杖を店の土間へ入れて、おおどかに呼びたてていた。

「まんじゅう屋。まんじゅう屋。――誰もおらんのか。商いはしておらんのか」

三

返辞がない。

そこで老公は、少々、足のつかれを思い出して、折もよしと、店框の端に腰かけていた。

するとひとりのお菰がのっそりと入って来た。裏へでもまわって物をいうのかと見ていると、そうではなく、

「菓子をくれい。おい、店番はいないのか。店番は」

と、さきに呼んだ老公と同じように、奥仕切の中のれんへ向ってどなりだした。

老公の声よりもずんと大きいので、届いたとみえ、奥のほうで返辞がした。