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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

二十四

「勘太……。いただいたぞ」

と、縁先へすすみ出ていった。

二十四

勘太はまんじゅうを喰べた。

押しいただいて、それを二つに割って、口へ入れるまでの間に、数行の涙が、かれの頬をぬらしていた。

「…………」

一瞬みな、厳粛に、かれの喰うまんじゅうの味を思いやっていた。

「みなも喰べんか」

ふと、老公は、席を顧みて、一同へいった。老公も喰べた。

遅桜の幾片が、どこからか風に送られてくる。晩春、月はまだ暈し、木々の芽のにおいは仄かだった。――と、誰か、徐々、膝拍子をたたきながら朗吟する者がある。

先生は常州、水戸の産なり、その伯疾み、その仲は夭す。先生夙夜膝下に陪し戦々兢々たり。

その人と為りや、ものに滞らず、事に著せず、神儒を尊んで神儒を駁し、仏老を崇めて仏老を排す。

常に賓客をよろこび、ほとんど門に市る。暇あるごとに書を読みかならずしも解するを求めず。よろこべど歓びを歓びとせず憂へども憂ひを憂へとせず……

誰かと、吟ずる人を見ると、座中もっとも沈黙をまもっていた人見又四郎であった。

みな襟を正し、みな心耳を澄ました。

この一篇の文章はたれも暗誦じているものだった。