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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

二

又四郎は、さっそく箸を取って、頬ばりながら、

「ありがたいなあ」

と、むしゃむしゃいう。

「なにがさ」

「渡る世間というものが」

「時々おまえさんは、しおらしそうなことをいうね」

「時々か。ははは」

「酔っぱらって、憎ていなことをいったり、あんまりわがままをいうと、もう関ってやるもんかと思うんだけれど」

「そんなはなしをすると、また飲みたくなってくる」

「晩におしよ」

「あ。……神輿が通るのかな。往来はたいへんな騒ぎらしい」

「路地の口で、いつまでお神輿が揉んでいると、お次が困っているだろう。お茶を持って来るようにいいつけて来たけれど、若い女と見ると、おもしろ半分に、通すまいと、からかうからね」

「お次さんも、祭でお暇をもらって来たとみえるな。しばらく、お次さんの顔も見なかった」

「実はね、又さん」

おかみさんは、真顔になって、急に声をひそめ出した。

「うちのひとが事情のよく分るまで、おまえさんの耳に入れるなというものだから、きょうまで内緒にしておいたけれど、お次は、もうとうに、杉山検校さまのおやしきから、お暇を出されて、家へ帰っていたんだよ」

「えっ。お暇になったって」