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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

「ありがたい思し召。剣持与平どのからうけたまわりました。御意のほど、伝えてあげたら、あのお方も、どんなにお歓びかとぞんじます」

「彼女は……もう幾歳になったかのう」

「五十六、七かと思いますが」

「よい婆だの。子は大勢か」

「お子にはご運がなく、二十歳ばかりのお娘御と、まだ前髪の少年と、おふたりしかございません」

「彼女が、わしの側へ仕えておったのは、わしが二十四、五の頃じゃった。もう四十年近いむかしとなる。……さすがの美人もさだめし変ったことであろう」

「ところで。――ようやくこんどはおゆるしを賜わりましたが、いつごろ雪乃さまとお会いくださいましょうか」

「――左様」

と、すこし案じて、

「早いがよかろうな」

「もとよりお早いに越したことはございません。何せい、雪乃さまのほうでは、二十年やら三十年やら、実に長いあいだを、じっと、おゆるしのあるまでお待ちになっていたことでございますから」

「あさってはどうじゃ、早すぎるか」

「結構でございましょう」

「黄昏から伴れ参るがよい。ちょうどその夜は、例の汁講で、西山の隠宅に、講中の侍どもが打集うことになっておる」

「それはお賑やかなことで、よい機に相違ございませんが、お年は老っても女は女、それに……それにまた……お目通りする事がらが事がらでもございますゆえ、いかがなものかと存じますが」