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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
「なるほど」
「だから、この国の土中にかくれた、過去の偉大な白骨は、この国の非常なときに応じて、いつでも、その時にふさわしい古人が、現在の生きているものから呼び迎えられる。そして文学やら絵やら口伝やら、あらゆる象をとおして、ひとの知性や血液にまではいってゆく」
「ははあ、そうですか」
「そうだろう。……知らぬまにその人のなかには、古人の意志が住んでいることになる。たとえば、おまえが半年のあいだ、正成公の碑にむかって、カチカチカチカチ鑿をもって仕事しているうちには、いつか、正成公のこころが、一滴の血ぐらいでも、おまえの意志のなかにはいって来たにちがいない。そう考えてみたら分ろう」
「なんだか、わかり出しました」
「だから、古人は白骨であるが死んではいない。つねに今の生けるひとのたましいをかりて、次の時代までの働きをしている」
「おもしろいものですね」
「いや、こわいな、ひとの生命の長さを考えると。五十年はめしを喰っているうちだけのことだ。生命の波及することは限りも知れない。次から次、次から次、国土とひとのあるかぎり、自分の生命は結果のない結果を及ぼしてゆく」
「ちと、むずかしい」