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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

七

少々、おもしろくない顔色はしていたが、まさかと思っているまに、為は浪人者のまえへ歩いて行って、

「この味噌ッ糠めっ」

大きな掌のひらで、彼の横顔を張り仆した。

半分の顔を、両手で大げさにかかえて、

「ア痛っ。――おのれ、なにをいたした」

「撲られているくせに、何をされたか、わからねえのか」

「よ、よくも」

抜く手がのろいので、そのすきに、もう一つ、ぱんと喰らわせて、

「正成公を、知らねえのはまだ我慢もできるが、知らねえくせに、与太をとばすのも程にしやがれっ。さむらいのくせにしやがって――この生れぞこないめ」

そしてすばやく、連れをふりかえるやいなや、

「勘太っ。それ、逃げろ」

と、駈けだした。

七

痩せてもかれても、さむらいはさむらい。浪人者は、

「こやつ」

と、赫怒して、追いかけた。

旅の者、土地の者たちは、

「あぶないっ」

と、どっちへ組すともつかず、声を放ちあった。

抜いたからである。

そしてその白い刃ものが、為のうしろへ届きそうに見えたからであった。

為は、とたんに、草むらの中へ、横ッとびに走りこんだ。

篠に絡んでいる芋のつるに、為はすぐ足をとられて、ころんでしまった。