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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
そして、為をうながして、
「さあ、行こうよ。大事な仕事の終るまでは、土地の者などと喧嘩しちゃあ、佐々さんに悪い」
河原に添って、歩き出した。
為は、彼の顔を見ていた。夕星と水明りのせいか、きょうに限っていつも小馬鹿にしているもや助とは見えなかった。
「勘太。おめえは、途方もなく強いんだな」
「よせやい。あいてが弱すぎるんだよ。おれの故郷には、船頭や物売りの中にだって、あんなのは歯も立たない腕っぷしのが、幾らだっているさ」
「そういえば、いったいおめえの故郷は、どこなのか」
「東のほうだよ」
「東の方だって、広いじゃねえか」
「箱根のむこうさ」
「へんにかくすなあ」
「おう、もう来たぜ、門前町へ。こん夜は広厳寺で、おれたちを振舞ってくれるってな」
門前町といっても四、五十戸にすぎない部落である。広厳寺がその中心をなしている。
職人たちは、そこここの百姓家へ泊っているのであった。ふたりも農家の一軒へはいって、湯を浴びたり、汗くさい仕事着をぬいで、素袷となったが、こん夜は寺に振舞いがあるというので、晩飯は喰べずに、やがてぶらぶら寺内へ出かけた。
「……あ。どっちの木も、しっかり根がついてら。