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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
すると、なんともありませんや。……あはははは、こんな吝ッたれた喧嘩なんざあ、おかしくって、売る気にも買う気にもなれやしません」
「…………」
介三郎は、勘太の面を、じいっと見入っていたが、思い出したように、そうだ、と一つ大きく頷いた。
楠子一族のことを思えといわれたような気がしたか、石権もはっと、自分の怒りをくだらないと悟って、
「いや旦那、大きにてまえの浅慮でした。もう何もいいますまい。……それにしても勘太、おめえからお講義を喰おうたあ思わなかった。おめえもまたいつのまにか、佐々の旦那にそっくりな口吻になったなあ」
「どうも面目ございません」
「なんの面目ねえことがあるものか。おれだって欣しい」
「ここのお墓の土をふみ、湊川の水を毎日汲んでいて、身に沁みなかったら、人間じゃございません、一日ましにそう思って来たせいか、もうここの仕事も、年内でおしまいになるのかと思うと、なんだかさびしい気がします」
「てめえにそういわれると、あなにでも入りたくなった。佐々の旦那、つまらねえことに暇をつぶしました。精出して取り返しますから、旦那も気を直しておくんなさい」
その日もここの仕事場は、そこらの畑や枯れ葦に夕霜の白く暮れるまで、みな仕事から離れなかった。