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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

五

血が黒く光るのである。

「ところのお役人方でござるか。ご苦労にぞんじます」

すすんで介三郎のほうからいった。羽織を着たのが、上役とみえる。この辺の海からあがるトラ河豚みたいな顔をしている。横へいはこういうひとの通例だが、より以上、いやな感じを与える眼ざしで、

「おてまえは?」

「もと水戸家の臣、佐々介三郎でござる。よんどころなく」

いいも終らぬうちトラ河豚は、十手を示して、かれに縄を打てと部下に命じた。

五

縛れ――と命じられたが、かれの部下は、介三郎のそばへただちに寄りつけなかった。

「なに」

らんと、眼に怒りを見せた介三郎の身がまえに、反対の威圧をうけたからであった。

上役のトラ河豚は、さすがに動じなかった。悪党はあつかい馴れているぞという落着きぶりである。

「ともかく、参るがいい」

「どこへ」

「代官所へ」

「行く要はない。……それよりも、はやく死人、怪我人などの検視をすませてもらいたい。さもないと、手おくれになる重体もおる」

「なにをいう、その方が手をかけておきながら」

これはトラ河豚のいうほうが常識では正しそうだ。しかし介三郎は、屈服しない。

「逃げかくれするこの方ではござらぬ。