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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
五
と、まるで自分が崇められてでもいるように、歓喜しながら告げた。
介三郎もさすがに喜色をいっぱいに湛えて、
「そうか。そうか」
と屠蘇の酔いを、顔じゅうに輝かしていた。
「日月いまだ地に堕ちずです。糜爛しているからといって、世相の一局部だけを見て一概に罵り嘆くにはあたりません。ひとりの神性の持ち主がそうした世間を歩けば、いつか五人十人とそのまわりに神性のひとが生じますから」
といいかけて、ふと和尚の顔を見て急に笑い出しながら、
「いや、あなたは、僧侶でしたな。仏性のひとに、神性を説いては、当りませんかな」
と、さらに哄笑した。
五
広厳寺の和尚は、首を振って、
「なんの、そんなことはありません。寺院だから、僧侶だから、神をうとんじるなどということがあってよいものでしょうか。佐々さんにも似あわない仰せだ」
と、やや憤慨にたえない容子に見えた。
「神を祭るのに、きわめて清浄を貴ぶ風習から、身親なもののうちに、死人があると、その一年は鳥居はくぐらないとか、喪のうちは神棚を閉じて、祭器にも手をふれないとか――そんなところから、神仏は仲のわるい別ものみたいに考えられて来たのではありませぬかな」