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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
四
――見りゃあまだおまえさんも三十そこそこの若さじゃないか。その満足な手足を親からもらって、親御にもすまないと思わないのか。出直しておいで、出直して」
四
すごい眼の玉をむいて、いまにも吠えつきそうな顔をしていた那珂川原の勘とかいうお菰は、ふと、その眼をふせ、首をたれ、片あぐらを乗せていた店框から身を退くと、
「……お喧しゅう」
と、起って、間が悪そうに、
「また、いつかきっと、出直して買いに来る」
どう考えたものか、すごすご去りかけた。
菓子舗の主は、
「お待ち」
と、あわてて呼びとめた。
急に、虎が猫になったように、おとなしく帰り出したお菰の容子に、かえって気味も悪くなったろうし、いい過ぎたとも悔いたのであろう。
竹の皮に、あわてて菓子をつつみ、それをお菰の手に恵んでいった。
「悪くとってくれちゃあいけないよ。何もおまえを辱かしめるつもりでいったのじゃないからな。さ、理がわかれば、わしもそれで満足だ。……多寡が菓子のこと、持っておいで、なあにお代なんぞいらないよ」
「ありがとう」
お菰は、竹の皮を、押しいただいたが、そのまま上がり框へおいて、
「おあずけしておきましょう。