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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

夕方、勘太と共に外へ出て――勘太とはべつに、湯女などのいる風呂屋の情景も、いちどは見ておこうかと、それらしい一軒の門をくぐったところ、そこの二階で、湯女をあいてに、さかんに飲んでいたのが、棒の又四郎であった。

もとよりふたりは共に西山荘に仕え、老公の直臣として、刎頸の交わりをしていたあいだである。一方が浪人したからといって、急にその友誼に変質を来たすような仲ではない。又四郎はよろこびの余り、

(ここは夜どおしでもいいのだから、夜を徹して飲もうではないか)

と、ある限りの湯女を一席にあつめ、ある限りの酒と佳肴を供えて、介三郎をもてなそうとしたが、介三郎はほどよくかれを外へ連れ出して、

(ああいう場所では話せぬこともあるから、おれの旅籠へ来てごろ寝をしないか)

と、この木賃へ連れて来たものだった。

ここには元より乏しい火の気と渋茶の土瓶しか懸かっていない。けれど、それを不平とするほど又四郎は心から堕落しているものではない。

渋茶を飲み飲み、ふたりは心のそこのものを、たがいに忌憚なく吐いて、夜の更けるのも知らなかったが――話せば話すほど――同じ心の友でありながら、その目標へすすむ行き方としては根本的に意見の相違があって、相距たること遠いものを思わすばかりだった。