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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

年はやがて五十にもとどこうが、そうは見えない。ゆかしげに上品に、総じて若づくりのせいもあろうが、髪はひとすじも白くなく、きれいになでつけ、面は化粧しているかのように、色白でありすこし頬紅を使っているように赤味ざしている。眉は秀才がた、鼻骨はたかく、唇もとのしまりよく、愛嬌のこぼるるようなところがあり、面、肩の肉、背丈など、一体に薄肉のたちである。

――うしろの襖が開く。

音もなかったほど静かに。

そしてひとりの美人が、かれの前に茶を改めた。

すこし退って、

「まことに、お待たせいたしました。あいにくと、お客来がかさみまして、殿さまのお立ちあそばすおいとまもございませぬので……」

吉保の侍臣からいわれて来たことばを、そのまましとやかに告げると、客は、

「いやいや、ごもっともでございますとも、深更にでもならなければ、なかなかおからだにすきもないお忙しさは、存じての推参、決して、お気づかいたまわるな。いつまででも、お待ちしておりますれば」

さきは侍女と分っているが、客はいんぎんに、やや手を膝から辷らせていう。

「では、もうしばらく……」

侍女は立ってゆく。