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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

二

客はながし目に見ていた。ここの侍女に不美人はいないとよく人はいうが、なるほどと頷いているかのようにである。

「……さて、表の客も、長座な客。たれであろう?」

すこし猜疑ぶかい目をした。細めると、まつ毛の陰に針のようなものが光る。

このひとのことを、世評では名家老といっている。藤井紋太夫、あれがいればこそ、水戸家の財政は、光圀があんなに費いちらしても持ちこたえているのであると、もっぱらその功を紋太夫の手腕に帰していた。

二

武家やしきには、ひとつの剛壮な様式があるが、ここの廻廊に立つと、多分に京風が加味されてある。

廻廊に欄のあるのがそうだし、銅燈籠の懸け連ねてあるのも優美に過ぎる。わけてその廊を奥へ行く美人、退がって来る美人――何かを捧げ持って――燈影の下を楚々と通う女性たちの色やにおいにそれが濃い。

主人吉保の好みであろう。

夕方から数寄屋のほうには、ぽつねんとひとりの客――水戸家の藤井紋太夫が来て待っているというのに――ここの客書院では、興も酣で、べつな客と主のわらい声が大どかにながれ、数寄屋の孤客にはいつ目通りを与えるのやら、気にとめているふうもなかった。