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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

五

「ご註文がございますれば」

「あすの夕刻までに、西山荘へ何ほどか届けてくれい。宵をこえては味が変ろう」

「かしこまりました。……けれどつい今しがたも、あすの夕までに西山荘へそれをお届けするようにと、よそ様から同じご註文がございましたが、どうやら重なりますようで」

「なに、よそからも?」

「はい、白石様の後家で、あのきれいなお嬢さまのいらっしゃるおやしきからで」

「そうか。では、ゆうべのうちに惣左がもうわしの返辞を告げたとみえる。――わしの好物と知ってあす来る折の手みやげに、誂えたものと思われる」

「むだになっても勿体のうございますから、白石様のおみやげだけで、およろしいのではございませんか」

「それで足る。それで足る。わしの用は無用になった。無用人がたまに出てまいればこんなものか、はははは」

老公は一笑してから、

「その使いで、ここへ見えた帰りであったか、白石の後家の娘を、ついそこの辻で見かけたが、なるほど、うわさにたがわず端麗じゃな。年は、いくつかな?」

と、真顔にかえって訊ねはじめた。

五

自分のことでも訊かれたように、主は、光栄がって、彼女の素行から日頃のことまでを、吹聴してやまなかった。