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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

「無残、無残。ころしては可哀そうだ。……」

と、吉保は急に冴えた面に返って、

「では、呼んでみるか。……これへ」

「そう願えれば」

「しかし、わしは検校を待たせてあるが。――こういたそうかの。お蕗を隣室へ呼んで話せ。わしはここに寝ころんで、検校に療治してもらう」

「検校は盲目ですが、耳は聞えましょう。大事ございませぬか」

「盲人には、隠してもむだじゃ。わけて勘のよい杉山検校、諸家の内事は、みな知っておる。しかし、わしへ叛くようなことはない。紀の国屋文左を、当家へ伴れて来たのも彼。案じるに及ぶまい」

吉保は、小姓を呼んで、

「検校をここへ」

と、いいつけ、また、べつの家臣には、女部屋の錠口を開けて、お蕗をつれて来るようにと命じた。

出入りの自由を禁じた特殊な一棟があるとみえる。錠番の者もついて、やがてひとりの女性がここへ呼ばれて来た。――というよりも監視附で拉して来たというほうが実際に近い。

そのとき藤井紋太夫はもう席を次の間へ更えていた。かれは、お蕗のすがたをじっと見てから、

「暫時は、てまえがお預り申しておる。どうぞ、お退り下さい」

と錠番の者や、ほかの家臣をしりぞけた。