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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

主人公は、破れ畳のうえに、眼も唇も流して眠っていた。毛脛の端に西日がさしている。感心なことには、昼寝の枕にも、書物を重ね、大きな刀をわが子のように抱いて寝ている。

「まだ起きるのは嫌かい」

自分の息子でも呼ぶように、おかみさんは側へ坐った。前垂れを被せて持って来たのは、刺身の出前ではなかった。お重につめた赤飯と煮しめである。

(どこへ置こう?)

と、茶箪笥ひとつない家のなかを見まわしていると、もう縁がわに猫が来て眼をすえていた。

「しいッ」

猫が下へ跳ぶと、又四郎は大きな眼をして、

「おばさんか。――う、うっ。ああいいところへ来てくれた。水を一ぱいくれないか。汲み立ての冷たいのが欲しいな」

と伸びをする、眼をこする、なかなか体は起こさない。

「お祭だからいいけれど、あんまり飲むと、体をこわすよ又さん。――おまえさんだけは毎日お祭なんだからね」

うしろへ廻って、大きな体を押し起してやる。又四郎は、やっと坐って、

「よく寝たなあ」

「寝られるはずさ、蝙蝠なんだもの」

「晩になると出かけるか――。あははは」

「笑い事じゃないよ、おまえさんは」

「うるさいな、おふくろみたいに」