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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

「たのむ。……して、仔細は」

「わたくしがお邸を出される前の日と思います。いつものように、林助さんは、検校様のお供をして、柳沢様のお館へ伺ったはずですのに、検校様だけは夜おそく帰られたのに、林助さんはその晩限りすがたが見えませんでした。――朋輩の召使たちも不審がって、その晩、一緒に行った駕の衆などといろいろうわさしておりましたが、そのうちにわたくしは、検校様に呼びつけられ、宿元へ帰れとお暇をいい渡されたのでございました」

「そのとき検校は、何か、特にいったか」

「あなたのお察しどおり、決して世間に口外はならぬぞ、もしひょんな事が、そなたの口から出たと知れたら、怖ろしい禍いが身にふりかかろう。そなたばかりか両親の身にも……と、きつくいわれました」

「口外するなとは?」

「林助さんが帰らないことです」

「その林助は……柳沢家へ供をして行ったまま、どうして検校のやしきへもどらないのであろう」

「お館の奥へしのびこんで、柳沢様のご家来に見つけられ、縛られたというひともあり、殺されたという者もありまする」

「なに、殺されたと」

そのとき門口で、急調な笛太鼓が突然鳴り出した。