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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

二

――その棒は、いまも直らない。老公のまえに坐っても、棒のままであった。

二

このお相手は、膠も世辞もない。坐ってはいるが、いるだけである。

いつまでも、黙っている。

で、自然、あべこべに、老公のほうから話題を出しては、話しかけるようにならざるを得ない。

「又四郎。退役後は、何して暮らしておるか」

「何もしておりません」

「飽かぬか」

「左様にも思いませぬ」

「勉学は」

「学問はちと飽々です。ほどほどにしようと思いますが、何でも、ほどよくは参らぬもので、抛っております」

「なぜ、学問にあいそがつきたか」

「頭でっかちになり過ぎると、五体のつりあいがとれませんから」

「そこまで、そちは学問をやったか」

「ならないうちに、心がけておりますので」

「卜幽の子にも似あわんの」

「つとめて、おやじには似たくないものと、亡父を鑑にしております」

「どういうわけじゃ」

「儒者などというものは、くだらぬものと心得ますゆえ」

「なぜ、くだらぬ?」

「智ばかりに耽って、行が足りません。事、実行にかかると、だらしがないようです。たとえば、江戸表の彰考館――小石川のおやしきの史館などには、大日本史編纂のお係りとして、当代の学者はほとんど網羅されておるでしょうが、まあ、あの仲間をごらんなさい。