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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
のべつ末梢的な議論にばかり暮れていて」
「又四郎」
「はい」
「人見のせがれは怪しからぬ、卜幽の子は不肖だと、よう陰口を耳にするが、故ある哉、そちの言は、どうもいちいち僭越すぎるようだの。幼少からわしの側に侍していた其方のことゆえ、わしの前では、甘えていうものとしてゆるすが、人なかではいうな。めったに、そのような雑言は」
「は。いいません。けれど……老公の御まえでは、おゆるし下さい。お気にさわったら切腹を仰せつけられてもかまいませぬ」
「まだ何か、いいたいか」
「いいたいことで、おなかが膨れております」
「いうてみい」
「お家は亡びます。……いまのままでは」
急に、又四郎のからだが、ふしくれ立った。両の肩を二つの瘤みたいにして、そのあいだにふかく首を垂れてしまい、右の手の拳で鼻のあたまをこすった。涙のしずくがぶら下がったからである。
「ははは、なにをいう」
老公が笑い消そうとすると、又四郎は、ぺたと、両手を畳へ落して、
「おわらい事ではありません。お家は亡びます。老公のお目があいているうちは、或いは、ないかもしれませんが、ご老齢に、ふとしたことでもあればたちまち。……」