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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
ぎょっとした。――かの女の唇は白くなった。すぐそこに、不浄門の口が見えたからである。
「おそれ入るが、あれへお乗りください」
三右衛門と村右衛門は、そこに並んでいる空駕を指さした。駕の数も、あつらえたように、ちょうど家族の頭かずだけ揃えてある。
しかも、その側にまた、べつな侍が三人、厳かな顔して待っていた。それも西山荘のお抱え鹿野文八、剣持与平、もうひとり樫木万右衛門である。
「やあ、ご苦労でした」
「お待たせ申した」
双方のあいだに、こう会釈があって、三右衛門はふたたび、紋太夫の妻をうながした。
「ともあれ、これにお乗り下されば、委細はあとで分ります。――老公のご命令であります」
「……はい」
老母の顔を見、また、うしろにいる二人の息子を顧みた。
息子たちは、何のためらいもない。母に従いて、
「これに乗って、どこへ行くんだろ」
それだけが不審そうであった。
剣持、鹿野のふたりは、老母を介添えして、駕のうちへ移し入れ、やがてほかの三挺も納まると、
「駕の者。急いで行け」
と、不浄門の陰へいった。
駕は、門の外へ出た。――剣持、鹿野のふたりは先に立ち、ほかの三名は、後に尾いて駈けて行った。