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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
十一
十一
そう遠くではない。時間にしても短かった。――赤城下あたりの坂道。
紋太夫の妻が、そう思っていた頃、駕はふいに、坂道の途中でとまった。
「あっ。此家は」
駕のうちから出されると同時にかの女は口走った。藤田将監の家のまえではないか。
将監というのは、藤井家の親戚で、紋太夫には伯父にあたるひとである。
「ご子息たちも降りられい。ご老母も……」
ここまでは、海野三右衛門や秋山村右衛門も、至極、鄭重であったが、紋太夫の家族四人をそうして、門の内へ突きやると、
「――お渡しいたしたぞ」
と、もう囚人に扱った。
門内には、十名ばかりの役人が、奥の出入口を監視していたが、
「おう、たしかに、受取った」
と、その仲間で答える。
断るまでもなく、みな水戸家の臣だ。家宅捜索でも行ったらしく書院などに、反古やら調度の散らかっているのが外からも窺われた。
紋太夫の家族たちが、そこの奥へ引っ立てられて行ったかと思うと、やがて、わっと泣く少年たちの声と、すすり泣く女の声とが一瞬、洩れて来た。
「裏手の戸、通用口、勝手元、すべて外との往来を禁じるのだぞ。戸などは、釘づけにしてよろしい。