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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

「おお、連判か」

「それはないか」

「ない。……どこを捜しても」

「あとの反古はもうよい。それを捜せ。それひとつが欠けては」

かねて、紋太夫の手許には、かならず一味徒党の連判した冊か巻かがあるにちがいないことを、老公は信じて疑わないように一同へ告げおいてあった。

しかし、ふつうの物とちがい、常識でもそういう重要なものを、平常の居間や客の通る書院などにおいているはずはないことは分っている。――天井かとも思い納戸かとも惑い、人々は気ばかり無性にあせるのだった。

「土蔵だ。土蔵にちがいない」

こう信じて、江橋林助と与平は、土蔵の扉や窓へ寄って破壊を試みたが無益だった。

――すると、それまで、いたのかいないのか分らないほど、薄暗い一間に佇んで、しんと口を閉じていた人見又四郎が、血に飽かせたような片手の刀を上げて、

「わかったっ」

と、ふいにその血刀のさきで、茶の間らしい大炉の切ってある一室を指した。

十四

紋太夫の手飼の家来やら食客らしい者など、約十名あまりも出合ってよく防いだが、わけても、最後の最後まで、奮戦に努めて死んだ用人がある。

その用人は、五十がらみの小男だったが、非常な敏捷さで、佐々、人見、江橋などが闖入して来ると、いったん玄関に出て、防戦に努め、そのうちに身をひるがえして、そこの炉のある一室の前に立ちはだかり