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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
と気づいて、そうだと、急に足をとめて、しばらく出口に佇んで待っていた。
が、容易に見えないので、
「何をしているのやら?」
「日頃も、こんな時も、変りのないのろまさだからなあ」
「あれでは、単身、柳沢家へはいっても、空井戸へとびこんでしまうわけだ……」
などと、はや幾分の余裕を生じたので、苦笑しながら待っていたが、依然、あとから出て来る様子がない。
「けたいな男」
と介三郎は呟きながら、ついに家の中へもどって行った。剣持与平も従いて行った。その他の者も、何気なくみな元のところへ帰ってみた。
――見ると、
あとに残った又四郎は、ただひとりで、炉べりにあった用人の死骸を、次の仏間へ運んでゆき、藤井家の仏壇の下に、敷物まで与えて鄭重に寝かしている。
そして、こんな急場というのに、香炉を移して、死者の前にすえ、焚香合掌して、その前に、黙祷をあげているのだった。
「ああ……さすがだ、又四郎であろう」
一刻もはやくここは去るべき場合とは知りながら、又四郎は、あわれと、それに一掬の涙をそそいでやらずにいられなかったらしいのである。
介三郎も、思わず用人の死骸に手を合せた。