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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

人々が寄って、衣裳を解いた。老公は身をまかせている。そして、終ると、

「次の龍神の出までには、間もあること、そちたちも、中食せい」

と、ねぎらった。

「――ご隠居さまには」

と、ひるの支度を訪ねると、

「いま喰べては舞うによろしくない。切能のすむまでは、茶で足りる」

と、いう。

「では……」

それぞれ礼をほどこして退がった。藤井紋太夫も出て行った。

「…………」

光圀は、黙然と、ただひとりそこにいた。

鏡の間のひかえにいる佐々介三郎は、いまに老公が呼ぶか、何か、命じるかと、じっと、それのみ待っていた。

藤井紋太夫一味の連判と、証拠のもの四、五通をふくさにくるんだのを懐中に持って。

しかし老公の声は、いつまでたってもしなかった。

ようやく、聞えたと思うと、

「介三郎。ぬる茶を一碗」

と、いう声だった。

「はっ」

と、それにさえ、何か胸おどらせながら、側へ寄ると、光圀はすぐ、

「ふくさの物をわたせ」

と、早口に求めた。

十九

介三郎の護持していたふくさづつみの品は、かれの懐中から光圀の懐中へ手ばやく移されていた。

それから一碗のぬる茶を飲んで、次に、

「料紙とすずり筥をこれへ」