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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
――と、同時に光圀の体も、鬘桶に乗せている半切の裾をややひらいて、ずっと、紋太夫のほうへ向き直った。
「…………」
敏感な紋太夫は、このとき初めて、何かを感じたらしい。――それまでの何気なさに、ぎょっと、内面からの脅迫をうけたらしく、ぶるっと鬢の毛をふるわせた。
「…………」
畏る畏る見上げると、光圀の面は、さながら龍神の面を、もうつけているのかと疑われた。眼はつねになくらんとしてかがやき、雪の眉は一すじ一すじ針のごとく立っている。
「……何ぞ。……なにか、ご用にございましょうか」
「紋太夫。いま申すことが、光圀さいごのことばであるぞ。胸を落着けて聴けよ。――この春のころ、あれほどにまで、予が、自身のいかりを宥めて、心の底より諭しおいたるに――汝、なお迷妄を醒まさず、前非を悔いず、前にも増して悪行を謀みおるな。天を惧れぬしれ者めが」
「……あっ。な、なにを御意あそばすかと思えば」
「いうな」
「おまちがいですっ。……何者かの、讒に相違ございませぬ」
板敷を叩かんばかりに、紋太夫は必死となってさけんだ。
二十一
「醜しいっ」
と、叱りつけて、光圀は、
「なおなお、今日に至っても、この光圀を、讒者の弁のごときに惑わさるるものと、観ておるのか。