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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

五

「老公のご本心としてはな……林助。徳川家などはいつ亡んでもかまわんという強いお考えを抱いていらっしゃるのだ。正しく家康公のお孫にあたり、またご三家の一として、身は幕府の柱石と生れづいておいでになるが」

「……いいのか、又四郎」

「なにが」

「そんなことを、めッたに口にして」

「貴さまが、幕府のまわし者や、柳沢の刺客でなくば、いってもかまうまい。――それとも、貴さまもまた、わが水藩の毒むし、家老の藤井紋太夫にこびて、柳沢にとり入り、ケチな出世の割前にありつきたいか」

「な、なに。この麺棒め」

「麺棒とはなんだ」

「もういちど、いってみろ。拙者を、武士でないというのか」

膝をつめよせると、手に鉈がふれた。けれど林助は、鉈の柄はにぎらなかった。からだの構えが自然、居合腰になるため、鉈では用をなさないのである。

五

「ばかだなあ、なにも怒ることはあるまい。――貴さまに限っては、節操を売るような武士ではあるまいといったまでだ」

又四郎は坐ったまま、両股をぐっとひらいて、その膝へ、両の手をつッ張った。自然、猪首が前へ出て、林助の顔とくッつきそうになる。

刀に手はかけたが、林助はその手を、どうにもできなかった。