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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
もちろんこの人々の胸にもつ盟いは水戸という一国土だったが、その国土を象として一身にもつ主君として、老公を神のつぎに崇敬していた。
ところが去年、その老公が隠居したので、一時は気落ちもしたが、その折、老公が発した藩士一統への告諭に泣いて、前よりもかえって結束をかため、汁講もつづけられて来た。
そういう若い一かたまりが、少将の家中にあると、前から聞いていた老公は、
「わしも汁講の仲間にはいりたいが、参ってよいか」
と、退隠後、いい出されたことがある。もとより光栄このうえもないが、
「あまり畏れ多いし、若い者ばかりの集まりですから」
と、謹んで断ったものである。
すると老公は、
「わしは老人ではないつもりじゃ。一百姓となっても、大日本史の業がまだあの通り若いではないか。年の数で、若いとか老人とか区別するのはちがっておる。二十歳だい、三十だいでも、幹から芽も葉も出せぬ無気力な輩もおるではないか」
そんな返辞を返して、その後人見の卜幽居に集まりのあった時、顔を出されたことがある。
その時の約束で、
「おもしろかった。そのうち西山荘でも一会やろう」
といったのが、やがて今夜に実現したわけである。