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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

「これは、異な仰せを」

と、五郎八という若侍は、変てこに威儀づくろって、

「なぜ、不忠不孝でござるか」

「おまえの泣くという意味は、涙をこぼすということか、痛心するということか」

「もとより、女みたいに、ぺそぺそすることではありません」

「では、大村五郎八は、親にたいしては、親が死なねば痛心せず、国にたいしては、泣く時しか、心をいためぬということになるの」

すると、五郎八のうしろから、

「退っこんでおれ」

と、ほかの者が、押しのけて、代りに老公のまえに坐った。

「拙者は、小西景助で」

「景助か。どうじゃ、まだ酔うには早かろう」

「まだまだ、酔うまでには、至っておりません。おながれを」

「そちも泣き上戸ではあるまいな。……おやおや、五郎八がまだそこに手をついて泣いておる。なにが悲しいのか聞いてやれ」

「てまえが、代りに申しあげましょう」

「ほ。泣き上戸の気もちが、代弁できるほど分っておるのか」

「この一堂におる者の精神は、みな一つです。――老公、あなた様は、なんで副将軍のお職をお退きになりましたか。なぜ、あくまで闘って下さらなかったんですか」

恐い眼をして、小西景助は、老公をにらみつけた。