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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
江戸小石川のやしきの裏、ひろい後楽園のわきに、桜の馬場がある。
昼間、永野九十郎という旧家臣が、能役者の仲間に交じって、宴楽に来たのを、当主の頼房が見つけて、
(武士の体面を穢すもの)
と、手討にした。
その場所は、館から四町も離れている木立の中だった。
晩になって、
(野犬が吠えておる。あの首はどうしたろう)
と、うわさになった。
頼房は、そばにいる千代松(光圀の幼名)に、
(首を取りに行けるか)
と、たずねた。
うなずいたので、頼房は、脇差をさずけて、では持って来いと、試みた。
昼間でも女たちは恐がって行かない場所である。千代松が、そこへ行ってただ困ったことは、人間の首というものが考えていたより重かったことである。
仕方なく、首のもとどりに、縄を結びつけて、ごろんごろんひき摺って帰って来た。
頼房は、そう賞めもせず、そのあとでまた訊ねた。
(もし戦場で、わしが仆れたら、そちはわしを助けるか、どうするか)
すると、千代松は、
(お助けしません。おからだをのりこえて、その敵と戦います)
頼房は、この子はと――その頃から特に愛をふかめ出した。といっても、膝にあまやかすことではない。