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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

むしろ、嫡子の光圀が、大言したことばや、抱いている途方もない夢にも似た事業の性質を聞くと、

(そうか。そう申したか)

と、喜悦らしいものさえ、眼もと唇もとに綻ばせているような反応だった。

最後に、ふたりの儒臣は、声を落して、

(若殿の思し召は、あきらかに将軍家へたいして、ご異端かとぞんぜられます。まさしく、水戸三十余万石のご浮沈にかかわりましょう。幸いにも、まだご世子、きっと、われわれもそれとなく、ご翻意をおすすめいたしまするが、殿よりも、何とぞ……)

いいかけると頼房は、こは意外なといわぬばかりな面持で、

(ああ、これ、何をいう。――困り者の光圀が一転して学問に心をひそめ、こんどは体でもわるくせねばよいがと案じていたが、それくらいな望みなれば、叶えて遣わしてもさしつかえないではないか)

親馬鹿とは、かかるお方のことをこそいうのであろう。嫡子も嫡子、殿も殿かな――と、ふたりの儒臣は、ここにいたって、もう何をいう勇気も失っていた。

(しかし、光圀のことばは、いちいち道理である。いや明らかな大義というものじゃ。将軍家のご制度に叛くとか、異端になるとか、そんな考えは浅すぎる。