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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

……これを人に観るとなおさらあわれ人間と思わずにおれぬ。二十歳にして志をいだき、三十にして立ち、四十にして何とか申しても、壮気と欲情は伴うものだ、どうしてわれら凡人が、私利私欲を離れ、まったく滅私の自分になりきれよう。一瞬とか、非常とかの場合はべつである。平常無事のあいだでは難かしい。……けれどよくしたもの。ようやく、齢もかさみ、天命を知り、やがてわが身も咲いた花のごとく、散らんとするときを覚ってくると、人も自然に花粉を地上にこぼしたくなるものだ。本能とでも申すものか)

かく正直にいって、

(だから人間が、ほんとうに、わたくしなき、きれいな奉公なり仕事なりができるのは、隠居の後かもしれん)

と笑って、

(――というて、壮年や初老のうちでは、真にわたくしなき奉公ができんというのでは決してない。ただ、そのわたくしが、年とともに追々違って来るのを感じるのである。青年、壮年期のわたくしには、どうしても旺んなる功利や欲情が交じって燃える。老境にはそれがひとりでに淡々となるに過ぎない。……偉くなってゆくんでも何でもないのじゃ)

ここでまた一笑を加え、さらに次のように述懐した。