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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
ほかにも、壇石が横たわっている。それにかかっていた弟子たちも、親方のことばとともに腰をのばして、
「ほんとですぜ、佐々の旦那。さっきから眼がまわるほど休みてえと思ってるんだけど、旦那が大汗かいて仕事しているのに、一ぷくということもいえねえし、参ってしまいましたよ。あんまり人使いが悪いと、よくいわれませんぜ」
と、一しょになっていった。
「あははは。悪かったな」
鍬の音はすぐやんだ。
饅頭なりの丘のうえだった。どこを眺めても平らな畠のなかに、ここだけが明らかに古墳の址を示していた。
延元の役に、楠木正成が最期をとげた地と伝えられている。
いま、その頂きの土を、掘り起しては、下へ掻き落している人がある。石工でも土工でもない、四十がらみの色の黒いさむらいで、炎暑のために、もろ肌をぬぎ、白いさらしの襦袢も、汗と土でうす黒くよごしていた。
「やすめ、やすめ。なにもおれに遠慮はいらん。おまえたちは職人だ」
鍬の柄を立てて、胸をのばす。顔にも胸毛にも、りんりと汗が這っている。湊川のかぜは快くその鬢をなぶっていた。
この春の初めから、ここへ来たり奈良へ行ったり、住吉方面へ碑の石をさがしに行ったり、建碑の起工から一切のことを奔走して、いまも工事の監督にあたっている水戸家の臣、佐々介三郎なのである。